株式会社エス・ディ・ロジの川口様は、介護と業務が重なり睡眠不足となっていた運転士の事故をきっかけに、睡眠疾患であるSAS対策の導入を推進。今では運転士から感謝されるだけでなく、運転職ではない従業員からも検査を受けたいという声がでてくるほど前向きに全社でSAS対策に取り組まれています。SAS対策を導入するに至る過程や、どのような気持ちで取り組まれているかお話を伺いました。
プロフィール
川口 愛子(かわぐち あいこ)
株式会社エス・ディ・ロジ 卸物流部 ソリューション課 マネージャー
運転士の安全を第一に考えた仕組みづくり
ー 普段の業務内容を教えてください
運輸安全マネジメントに関連する運行管理の業務全般を担当しているマネージャーです。
当社は運転士が約1,700名ほど所属しており、155の拠点があります。その運転士向けに、 交通事故を起こさないための運輸マネジメント業務や運行管理業務を担っています。
具体的な一例としては、ドライブレコーダーの運転記録を使って運転士と一緒に客観的に自分の運転を見直したり、安全対策車両の導入を推進したりもしています。
最近ではスマートアシストの導入、アイトラッキングを活用した「輸送の安全が確保されている熟練の運転士」の目線の研究と全運転士へのフィードバックの仕組みづくりを行っています。
運転士が一人で抱え込まないように、会社としてSAS対策に取り組みたい
ー SAS対策を検討するきっかけは何だったのでしょうか?
SASが原因の事故が起きたから、SAS対策を考え始めたというわけではないんです。
数年前に運転士が重傷となる単独事故が起きました。重大事故と認定され、無通知での特別監査が行われました。監査の結果、運転士はSASの治療中(※SASは適切に治療されていれば運転に支障はないといわれています)で、かつ自分と扶養者の両方の親の介護を抱えていたことを初めて知りました。SAS治療は適切に行われていたようですが、介護の中で睡眠時間が少ない状況が続いており、事故当日もうまく仮眠がとれておらず、単独事故ではあったもののレスキュー隊に助けられるほどの大きな事故となってしまいました。
状況を整理していくうちに、事故原因は本人が「まばたき」だと思っていた居眠りであったことがわかりました。SASは治療中であったため直接的な事故原因ではなく、慢性的な疲労からくる睡眠不足が原因だと判明したんです。
運転士は周りの迷惑になるからと自身の状況を会社に伝えず、一人で抱えてしまっていました。周りに迷惑をかけたくないという思いで頑張っていたのに、かえって不幸な結果となってしまったんです。
その時に、会社として、従業員の環境変化に気づくことができなかった、従業員から相談しやすい環境を作れていなかったことを反省しました。
昔、私が現場マネージャーを務めていた頃、同じように本人は「まばたき」をしていたと言っていた事故があったことを思い出しました。嘘を言っている印象もなく、なぜ事故が起きたのかわかりませんでしたが、事故状況の詳細を聞き取りしていると居眠り運転ではないかと思うようになったんです。ちょうど世間でもSASのニュースが流れており、もしかしたらSASなのではないか?と思いました。
ただ、本人は眠気などのSASの症状は全く自覚がなく、絶対にSASではないと断言していました。それでもSASの検査を実施してみたところ、”重度のSAS”と診断されました。担当の医師から「このまま放置していると夜中に急に心停止になる可能性もあった」と言われ、本人は驚いたと同時に怖くなったようでした。治療が始まってから「会社に言われてSAS検査を受けなければ数年以内に死んでいたかもしれない。命が助かった」と話してくれて私も安心した、ということがありました。
今回の事故でこのことを思い出したんです。睡眠がとれていないと重大事故が起きる可能性が高まります。他にもSASの治療が必要な運転士はいるかもしれない。そう思い、会社としてSAS対策の取り組みを考え始めました。もしかしたら小さな事故もSASが原因かもしれず、本腰をいれてSASの対策を考え始めなければと思い始めたときに、このSASスクリーニング検査のサービスを知りました。インテグリティ・ヘルスケアの方は初めて話した電話口でちょうど聞きたかった疑問点を丁寧に説明してくれて、検査実施に向けた不明点も回答してくれたので、もっと詳しく話を聞いてみようと思いました。
1,700名の運転士に検査を行き届かせるには外部のサポートが必要
ー SAS対策の実際の運用について教えてください
運転士が約1,700名いますので、 いつ・何名検査を実施するかは悩みました。
全運転士を一斉に検査すると、その年の検査費用が多額になります。そのため、
国交省が推奨している検査時期(※3年に1回の検査実施)と照らし合わせて、全運転士を3分割し、毎年検査を実施。各運転士は3年に1回検査が回ってくる運用に決めました。
方針は決まったものの、会社としては初めての試みです。実施前の準備段階から検査団体のご担当者との打ち合わせを繰り返し全面的にサポートしていただいたので、手探りながら実施することができました。
ー 運用でご苦労されている点があれば教えてください
今年で3年目になり、全運転士の1巡目の検査が終了します。3分割に分けているので、毎年初めて検査を受ける人がいます。毎年一から質問がでて対応するのは少し大変なところもあります。
担当者である私の業務量も多く、日々業務に追われている状態で、SAS検査に係る業務に多くの時間を割くことはできず、どのように時間を捻出するか、効率的に実施するかは苦労しました。
ただ、サポート担当の方が一緒に自社にあった運用を考えてくれたり、電話やオンラインでの打ち合わせも細かく実施していただいています。全面的にサポートしていただけているので、今では苦労せずに検査を実施することができています。サポート面は、他の検査団体との比較決定の決め手としたほど充実を感じており、本当に助かっています。
運転士からはSAS検査の実施に感謝の声も
ー 検査を実施されて、社内の反応はどうでしょうか
検査を受けた運転士からは、SAS検査を受けたことで治療を開始できてよかったという声も多くあります。SASの影響による他の疾患発症の予防にもつながりますし、SASは自覚症状に乏しく、自分では気づくことが難しい疾患でもあるため、SAS検査導入への好意的な意見を聞いています。
実際に治療をしている運転士からも、
「今回検査をしていなければ、SASによる突然死だったり、あるいはSASが起因の事故を起こしていたかもしれず、自分の命が守られただけではなく家族にも迷惑をかけず、他者に怪我を負わせることにもならず、本当にこの検査を受けてよかった」
という声もありました。
一方で、もちろん反発の声もありました。医療機関での検査や治療に進むとなれば、相応に自己負担があります。会社がこんな検査をしなければよかったという声もありました。色々な意見があるのは仕方ないとは思いますが、会社としては従業員の命や健康を守るためにも、理解と協力を求めて取り組んでいきたいと思っています。
情報収集を自社で行うのは大変。情報提供がありがたい。
ー このSAS検査サービスをご利用されてみて、管理ご担当者様の感想をお聞かせください
他の団体と比較しても決して料金が一番低いわけではないですが、その差を上回るほど充実していると感じます。検査実施~運用面のサポート、相談のフィードバックの速さ、どのスタッフも親切で対応が良い。充実したサポートがあるので安心して他社にもご紹介しています。
加えて、弊社は全国に営業所があるのですが、各県の助成金情報を探してまとめるのはとても大変なんです。このことを相談したらすぐに一覧にまとめて提供してくれました(※この川口様のご相談をきっかけに、今は毎年度の各県の情報をまとめて無料配布しています)。これは毎年活用しています。従業員や拠点管理者向けの検査実施に向けた資料が整っていることも運用担当者としては一から資料作成しなくていいので助かります。
SAS関連の情報提供も役立っています。自分で情報収集する時間をとるのは大変ですが、それをメルマガで流してくれていますよね。例えばコロナワクチンの接種が始まったタイミングで、SAS患者はコロナワクチンの優先接種対象となることも知らせてくれました。
こちらから相談すれば、それを形にしてくれる柔軟性がある。要望に対しても快く対応してくれているので、どんどん使いやすくなっていますし、満足しています。
事故が起きる前にSAS対策を
ー 最後に、他の運送会社様へメッセージがあればお聞かせください
社会の高齢化が進み、運転士の確保は年々厳しい状況にあります。今、働いてくれている運転士たちに安心して運転職を続けてほしい、SAS起因だけではないですが事故で不幸な結果になってほしくないと思っています。
運送会社は事故を起こさないために色々な対策をしていると思いますが、その中でもSAS検査はトラック協会の助成金で実質的な会社負担はそれほど高くありません。簡単な検査で従業員の健康と安全・安心が守れるきっかけになるなら会社として、事故が起きる前の対策の一つとして、全運送会社へ強くおすすめしたいと思います。
運転士の目線に立ち、強くSAS対策に取り組まれている、
株式会社エス・ディ・ロジの川口様にお話をお伺いしました。
川口様、どうもありがとうございました。