SAS担当になったら④~SAS対策においてのよくある課題~【全6回】

“SAS担当になったら”シリーズでは、 運輸業のSAS管理担当者になられた方向けに、SASの概要を分かりやすく解説しています。第4回では、運輸業の企業様がSAS対策を実施していく中でよくある課題をピックアップし解説します。


【おさらい】運輸業 SAS対策の流れ

SAS対策は ①スクリーニング検査 ②精密検査 ③治療 の3ステップ

SAS対策の3STEP
  1. 全員を対象に安価に実施できる「SASスクリーニング検査」
  2. SASスクリーニング検査で「要精密検査」の方が、医療機関で実施する「SAS精密検査」
  3. 精密検査の結果、治療が必要と診断された方が実施する「SAS治療」



ここからは、企業様ごとにそれぞれに課題がありますので、順を追って記載していきます。


SASスクリーニング検査の課題

SASスクリーニング検査においては、社内で運用が仕組み化されていないこと、全員を対象として実施していないことの2点が多くの場合課題としてあげられます。

社内で運用が仕組み化されていない

スクリーニング検査を実施する周期が決まっていない

最もよくある事例が、スクリーニング検査を実施する周期が決まっていないというものです。
スクリーニング検査をする周期が決まっていないと、以下の問題が起こります。

  • 最後にいつ検査したかわからない
  • 誰に検査したかわからない
  • 長期間未検査の時期が続いており、現在のリスク把握ができていない
  • 前回の担当者が異動し詳細不明
  • 過去の情報がなく新担当者が情報収集からスタート
  • 事故が起きてあわてて情報収集を開始する
  • 社内の説得から再スタート

決まったルールが無い場合、事故リスクを放置もしくは、把握できないという状態になります。
また検査を行うその都度運用を設計すると、担当者の負荷が大きくなります。
加えて、全ての企業の経営層が100%健康起因事故リスクに敏感ではなく、社内事情でやらない、説得に非常に手間がかかるというケースも散見されます。

会社の制度として明文化し、定期的に最小のオペレーション負担で検査をできる仕組みの構築が必要です。

本社管理しておらず支店に一任している

次に本社管理しておらず支店任せにしているという課題があります。支店ごとに統率をとると小集団で早くに回すことができ、本社負担もないため、本社から指示を出す場合には比較的やりやすい方法です。

一方、支店任せの状態を続けると、検査を実施していない支店がある、誰に検査を実施をしたか不明、今年の検査が終わっていない、といったことが起こります。

さらに、各支店がそれぞれ検査会社を 探す⇒調査 ⇒ 交渉 ⇒ 契約 を行っているため、全社で見ると同じ作業を複数人が実施しており人件費負担が高くなります。

加えて、検査会社が異なると検査結果の書式や言い回しが変わり、本社で把握する際に同一の基準で一覧化できないという問題があります。

従業員の方にとっては、運転する上での懸念点が見つかってしまうという点から、 SAS検査に不安感を抱くことも少なくありません。支店任せにすることなく、会社全体として取り組み、不利益が無いことを明文化することで不安感なく協力を得ることができます。

全員を対象として実施していない

ドライバー全員を対象にせず、何らかの線引で絞り込んで実施している

全体としては、減少傾向にあるようですが、会社が検査対象者を絞り込むことがあります。例えば、問診・BMI・運転者適性診断を利用したり、事故を起こした社員への検査があります。

国交省は3~5年に一度、ドライバー全員への検査を推奨しています。 SASは自覚症状が出にくく、日本人はやせ型でも発症しやすい傾向にあります。また、診療で利用されているような、検出漏れが発生しにくい客観的な方法を取る必要があります。

「絞り込み」は効率性や費用面からは有効ですが、運輸業としてリスクを把握する・対策するという観点では有効性は低いため、全員を対象とした検査の実施が推奨されています。


SAS精密検査の課題

「 SAS精密検査」では、精密検査を社内制度上必須としているか、従業員の自由意志に任せているかで課題が大別されます。

精密検査を必須にしている企業

例えば、就労規則や SAS規定を策定し、 SASスクリーニング検査で「要精密検査」となった場合に精密検査を必須にしている企業の場合、ほぼ100%に近い精密検査実施率となります。

この場合は精密検査を会社負担としていることが非常に多く見受けられます。精密検査は決して安いものではないため、毎年企業にも相応の負担がかかります。
精密検査を必須にしている企業の場合、精密検査の会社コストが課題感としてあげられます。

精密検査は、従業員の自由意思に任せている企業

SASスクリーニング検査までは会社負担で実施するが、その後の検査や治療は従業員に任せており、会社では関与しいないというケースです。
例えば、要検査の社員に対して、受診勧奨(病院受診をすすめること)というスタンスを取ることというような場合はこのケースに該当します。

このケースの課題は精密検査受診率が低いことがあげられます。決して安くない精密検査の金額を自己負担で、有給休暇を取得し実施することはハードルが高いです。
結果的に、受診率が低くなることから、スクリーニング検査でリスク把握はしたものの、そのリスクを下げる対策が打てていないという状況になります。


SAS治療の課題

SAS治療の課題としては、「治療開始の確認」および「治療継続の確認」があります。誰が治療をする必要があるか、誰が治療中か・継続しているかをリスト化していない、確認する仕組みがないことから、いつの間にか治療を中断し、事故リスクが下がっていないということがあります。

治療開始を確認していない

SAS精密検査までは実施したが、SAS治療の開始を確認していないため、治療が行われず、せっかくコストをかけて検査をおこなったのにも関わらず、リスクを下げられないということがあります。一番重要なポイントは、最終的に治療を完了することです

治療継続を確認していない

治療の開始は比較的漏れにくいのですが、その後の治療継続の確認が漏れてしまうケースは多くあります。 SAS治療、特にCPAP治療は適切なケアがない場合、初期で脱落してしまうことが少なくありません。治療継続を確認し、リスクを再び上昇させないことが重要です。


まとめ

課題は会社により異なりますが、まずは会社の制度としてルール化・仕組化し、従業員の検査や治療状況をデータベース化することが最も効果的です。

仕組化しない場合は、抜け漏れやオペレーションの重複が発生し、コストが高い一方で経営リスクが低下しきれません。

また、データベース化しない場合は、誰に検査をすべきか、誰が治療をすべきか・継続しているかが把握できず、脱落が発生するリスクがあります。

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