SASニュース 鉄道 2019/12/16

SASニュース

2019年8月29日、横浜市営地下鉄ブルーライン踊場駅を発車した横浜市交通局の回送列車が、折り返し運転のため引込線に侵入し、一時停止をせずにオーバーランし、列車が壁に衝突する事故が発生しました。2019年12月16日付でこの事故の調査報告書が公表されています。

” 市営地下鉄ブルーライン 踊場駅引込線 オーバーラン事故 調査報告書 ”
https://www.city.yokohama.lg.jp/kotsu/kigyo/anzen/20190606blueaccident.files/0008_20191216.pdf

事故調査委員

社内の各責任者を中心に、社外の専門家を招聘して調査体制を構築しています。

市営地下鉄ブルーライン 踊場駅引込線 オーバーラン事故 調査報告書  P1より

負傷、損害の状況

運転士1名が 膝の打撲、擦過傷 (すり傷)。回送列車であったため乗客はなし。

車輛は4台が損傷。詳細調査は今後予定されていますが、特に1号車~3号車までの損傷が大きいことが読み取れます。

施設にも破損あり。

運行への影響

事故発生の8月29日から9月7日まで快速ダイヤのとりやめ。 平日1日あたり 11 本、休日1日あたり 21 本の減便 。 8月29日~9月7日に(平日7日間 土日祝日3日間)では、単純計算で

11本×7日間+21本×3日間=140減便

となったようです。
ブルーラインの乗降者数等詳しい統計はこちら

事故の状況

以下の(1)~(4)より、整備不良や機器トラブル、教育不足ではないと結論づけています。

(1)車両の運転操作記録 車両のログデータから、運転士は停止位置の手前 188mの位置で力行オフ操作をして以降、 停止位置を 27m過走した位置(ATC 無信号により自動で非常ブレーキが作動した後で、衝突の2秒前)でブレーキ操作を行うまでの 31 秒間は、一旦停止も含め、一切のブレーキ操作をし ていないことが判明している。このことから、適正なブレーキ操作が行われていなかったこと が確認できる。

(2)車両の定期検査等の結果 事故前の直近の車両点検は以下のとおり適正に実施されており、かつ、事故の直前に車両故 障は表示されていなかった。このことから、車両が事故原因ではなかったことが確認できる。

(3)信号保安装置の定期検査等の結果 事故前の直近の信号保安装置の点検は以下の時期に適正に実施されており、かつ、事故の直前に信号保安装置は故障を表示していなかった。このことから、信号保安装置が事故原因では なかったことが確認できる。

(4)引込線における運転方法下りホームから引込線までの入換進路は、本線の列車運行の車内信号とは異なり、地上信号 機(二位式)の表示に従って進行する構内信号であり、この取扱いについては、運転士資格取 得時の運転士科教習や定期教育訓練等で理解している。また、これまでの業務のなかでも、このルールに沿った運転を行っていた。このことから、運転士がこの引込線での運転方法を理解していたことが確認できる。

運転士の状況

42歳 男性 運転士経験年数6年6か月

勤務状況とヒアリング内容

事故前後の勤務計画等の詳細は5P~7Pをご確認いただければと思いますが、
最終の運行後職場で仮眠をとり、明け方の運行のご担当であったようです。また、ヒアリングでは以下のように述べられています。

普段から寝つきが悪く、特に職場では時間がかかり、この日も最後に見た時計の時刻が2時 40 分頃だったので、睡眠時間は2時間から2時間半程度だったと思う。

・目覚めた時は寝つきが悪かったこともあり、 睡眠が足りていないと感じた。
・点呼では心身状態に異常なしと報告
・同僚と話をして過ごした。その時、居眠りなどはしていなかった。
・運転中はそれなりの眠気は感じていたが、お客様扱いを行っている時は緊張しているため、踊場駅に到着するまでの間はウトウトす るようなことはなかった。
・(一時停止前時速 23km で惰行運転を指して)この時点までははっきりと覚えているが、その後の記憶は全くない
・気が付くと列車が終端部の砂利に乗り上げていて、その振動で目が覚め非常ブレーキを入れたが、間に合わず終端部の壁に衝突した。 その後、「居眠りをしていた」と報告。

・事故後のヒアリングでの口述 「踊場駅での旅客扱いが終わり、折り返し後は回送列車となることで気の緩みがあったと 思うし、睡眠不足も感じていたが、自分としては危機感を感じる程度の眠気ではないと思っていた」

健康状態

・点呼時 ・健康診断 では問題は見当たっていませんでした。
また持病による服薬はあるものの、副作用として眠気を催すものはありませんでした。


定期的に実施しているSASスクリーニング検査では要精密検査であったこともあるとみられるが、平成28年の精密検査では軽症~中等症であり減量指示横浜市交通局もガイドラインに沿った対応をしていました

一方、事故後に行った脳疾患、心疾患の検査では問題なしであったものの、SASの精密検査では重症の睡眠時無呼吸症候群だとの結果が判明しています。

過去のSAS対策の取り組み

運輸業でも鉄道系はSAS対策への取り組みを手厚くされている傾向にありますが、横浜市交通局も同様であり、乗務に問題があることが判明した場合は乗務不可ともしており、事故防止に向けた対策を取られていたことが見て取れます。

市営地下鉄ブルーライン 踊場駅引込線 オーバーラン事故 調査報告書  P9

事故原因の結論

総評して、運転士が眠ったことが事故原因と結論付けています。

本件事故の調査を通じて、
・運転士が所定のブレーキ操作を行っていなかったこと
・車両や信号設備など施設面における異常や不具合はなかったこと
・運転士は引込線における運転方法は理解していたこと
・運転士は事故直後に「居眠りをした」と口述していること
ことが判明している。 以上のことから、本件事故の原因は、踊場駅の下り線ホームから引込線に車両を移動させる際 に、運転士が眠ってしまったことで所定の手順によるブレーキ操作を行わなかったためと判断す る

市営地下鉄ブルーライン 踊場駅引込線 オーバーラン事故 調査報告書  P11

重度の睡眠時無呼吸症候群であったことが影響した可能性があるが、病状の進行を把握できていなかったことが背景として述べられています。

本事故を受けての再発防止策

緊急対策として、再教育、確認および保安要員の添乗を上げています。

  1. 運転士へ事故原因の周知
  2. 基本動作の徹底
  3. 点呼における心身状態と睡眠時間の確認
  4. 保安要員の添乗(オーバーラン防止装置設置までの暫定対策 )

今後の対策として、ハードへの投資による防止策と運転士への教育・健康・環境投資を上げています。

  1. オーバーラン防止装置の導入
  2. 運転士の睡眠改善に向けた取組
  3. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の把握の充実等
  4. 職場の環境改善
  5. 仕業の見直し

この3で、SASスクリーニング制度の強化を掲げています。具体的には、今まではガイドラインに沿って3年に一度であったSASスクリーニング検査を

  1. スクリーニングの結果が正常の者は3年に一度
  2. 正常であっても、健康診断で体重が10%以上増加している場合はその年
  3. 一度「軽症」であったものは、2年連続正常となるまで毎年

とし、検査頻度を高めることとしています。また、治療を行っているものに対しても、産業医の介入を高め、治療状況を組織として管理、指導していくものとしています。

この報告書からニュアンスは読み取れませんでしたが、重要なのは単に罰則や管理を強化することではなく、組織が運転士に寄り添い、ともに安全に向け取り組み、SASの場合は適切に治療を続けていくことですSASは事故にフォーカスされやすい疾患ではありますが、適切に治療を行っていれば継続して運転可能であることは国土交通省自動車局のマニュアルにおいても明言されています。繰り返しになりますが、大事なことは組織・運転士が一体となって事故が起きないように取り組んでいくとです。

本報告書からの教訓

最後に、本報告書から考えるべきことを記載したいと思います。

横浜市交通局はかねてより安全対策に取り組んでおり、ハード(設備)の強化を惜しむことなく、またハードだけでは抜けてしまう、人への健康対策も行ってきていました。大きな事故防止の網は張ってきていたものの、今回の事故を機にさらなる事故防止に向けた対策を続けていく予定となっています。

運転士の健康状態でいえば、過去に「軽症~中等症」と診断されていたものの、経年により、事故時では「重度のSAS」であったようです。しかしながら、SASは一般的に自覚症状が無いことも多く、この運転士の方も同様に自覚症状が無かったようですので、自主的に会社の定めた頻度以上の検査を行うことは困難であったと思います。

また、SASは体重増減、筋力低下により経年で重症度が変わりやすいと言われており、1度検査したからと言って対策が充分とは言えません。ある程度の頻度で定期的に検査を行っていく必要性が見て取れるのではないでしょうか。

事故が起きてしまうと社内外問わず生活、人生への影響は大きく、金銭の面では事故対策・事故調査等企業から流出する費用も決して少なくありません。健康を理由とした事故の可能性を少しでも減らすため、運転士の健康状態を良好に保つため、定期的なSASスクリーニング検査の実施をお願いいたします。

当NPOではSAS対策の標準運用事例をお渡ししております。こちらよりお気軽にご請求ください。